ひも付き販売価格の積算をする際の注意点についてまとめました。
ひも付き販売とは、メーカーと購入者(商社もしくは問屋)が製品の製造前に商談し、取引条件を決定したうえで契約する販売方法であり、主に高炉メーカーが採用する販売形態の一つです。
鋼橋製作工の積算基準では、工場製作工で購入するベース価格について「原則として物価資料による高炉メーカーの販売価格とする」とあります。
したがって、鋼橋の工場製作工の積算では高炉メーカーが高規格材の取引で採用することの多い”ひも付き価格”で計上します。
なお、橋梁補修工事などで少量の鋼材を計上する場合などは、ひも付き価格を使用せず、現場車上渡しの塗装済み品の見積もりを取った方が無難です。
ひも付き販売と店売り販売
鉄鋼業界の予備知識
鉄鋼製品の生産方法は高炉と電気炉を使う2つの方法に分けることができます。
鉄鉱石から高炉を使って鉄を生産する
『高炉メーカー』
鉄スクラップから電気炉を使って鉄をリサイクルする
『電気炉メーカー』
高炉メーカーと電気炉メーカーについては、以下の記事をご参照ください。
ひも付き販売とは
ひも付き販売とは、メーカーと購入者(商社もしくは問屋)が製品の製造前に商談し、取引条件を決定したうえで契約する方法です。
主に高炉メーカーが採用する販売形態の一つです。
高炉メーカーから販売される際は、高規格材を多用する案件を中心に多くがこの販売形態をとります。ただし、契約条件によっては後述する店売り販売形態とすることもあります。
ひも付き販売価格は、ベース価格に対しエキストラ単価を加算していく価格決定方式を取っています。これにより、JIS規格への対応、厚み・寸法など多種多様な仕様要望に対しても鋼材の取引を円滑に行うことができます。
高炉メーカーにひも付き販売契約で製造販売を申し込むことを、
「ロールをかける」という言い方をします。
ひも付き契約は先物契約です。通常、納期は契約してから2ヶ月以上先になります。それとひきかえに、需要家は契約時の価格で確実に鋼材を入手することができます。
【 高炉メーカーが”ひも付き販売”とする理由 】
・1注文当たりに扱う金額が高額になる場合は、最終的な契約額を事前に合意しておいた方が都合が良い
・受注生産に近い販売形態であり、JIS規格などの細かな仕様要望にも契約額を事前合意した上で受注することにより在庫を抱えることなく対応できる
店売り販売とは
店売り販売とは、商社や問屋が自己の責任と負担で鋼材を仕入れ、これを不特定多数の購入者に自由に販売する販売方式です。
電気炉メーカーはほとんどがこの販売形態です。
店売り販売価格と市中価格は同じ意味です。
つまり、製品をホームセンターなどの店頭で買うのと同じ販売形態です。
(実際は商社や問屋から購入しますが)
分かりやすく再度整理すると、以下になります。
ひも付き販売 = 製造する前に製品価格を決める
店売り販売 = 製造した後に製品価格を決める
【 電気炉メーカーが”店売り販売”とする理由 】
・スクラップ原料調達時点の時価によって利益が大きく変わるため、製造時点で製品価格を決めない方が都合が良い
【 デメリット 】
・在庫品が発生する
積算での注意点
鋼構造物の積算
鋼構造物の設計をする際には、鋼材のJIS規格に規定された数値で構造計算を行います。従って、施工する際もJIS規格を満足する鋼材で施工されなければ性能が保証できません。
JIS規格では化学成分と機械的性質及び品質管理方法が規定されており、
これに適合した製品と品質管理を高品質に提供できるのが高炉メーカーです。
橋梁、造船といった高規格な鋼板製造は高炉メーカーが高いシェアを獲得しています。
鋼橋製作工の積算基準では、工場製作工で購入するベース価格について「原則として物価資料による高炉メーカーの販売価格とする」とあります。
したがって、鋼橋の工場製作工の積算では高炉メーカーが高規格材の取引で採用することの多い”ひも付き価格”で計上します。(ボルト類、鋳鍛造品、非鉄金属、パイプ等は例外)
鋼矢板、鋼管杭や鋼管矢板といった材料を購入する際にも”ひも付き価格”で積算します。(実際には店売り販売(市中価格)での流通があるのかもしれませんが、物価本に掲載が無い以上、これらの材料単価について市中価格を計上することはありません。なお、軽量鋼矢板は市中価格の掲載となっています。)
補修工事など少量の鋼材を購入する場合はどうしたらいいの?
物価本では、ひも付き販売価格は「月積み鉄鋼販売価格」として掲載されています。
この単価は、鉄鋼メーカーにロールをかける際の単価を調査したものです。
従って、以下のパターンの場合に積算で採用するのはかなり無理があります。
橋梁補修工事でボロボロになった対傾構を交換するのだけども、この「ひも付き価格」を計上すればいいのかな?
程度にもよると思いますが、橋梁補修工事など比較的少量の鋼材を扱う場合は物価本の価格調査実態と大きく異なるはずですので、ひも付き価格を使用するのは予定価格が過小になる可能性が高いです。
しかも、ひも付き価格を計上したところで原板ブラストやプライマー、工場塗装は含まれていません。そのため別途計上する必要がありますが、積算基準の工場製作は、新設橋梁部材を工場塗装する場合の想定です。これを無理やり計上して工場管理費などの間接費対象とし、工場製作工扱いで計上するのは無理があります。
現場車上渡しの塗装済み品の見積もりを取った方が無難です。
その際、現場塗装する部分以外については工場で塗装済みとし、ボルト継手部などの現場塗装部については無機ジンクリッチペイント仕上げを指定しましょう。塗装仕様については、鋼道路橋防食便覧を参照してください。一般部であればC-5塗装系、高力ボルト継手部であればF-11塗装系になると思います。
なお、見積もり条件を提示する際「工場管理費などの間接費は材料費に含むこと。」と指定してあげるとより親切だと思います。
材料費見積もりに限りませんが、見積もりを各業者さんに依頼する際には図面などで仕様を提示できる部分についてはできるだけ指定してください。複数社から見積もり徴収した際の条件不一致などの手戻りが少なくなると共に、見積もり担当者の労力が減ります。
先方は見積もり作成をボランティア状態でやっていることが多々あります。見積もり作成費用を価格転嫁しなければならなくなるのは官民双方にとって生産性が低く、悲しいことなので発注者側が可能な限り努力すべきです。
ロールがかかる取引数量ってどれくらいから?
ひも付き価格にはロールをかけられる取引数量について決まりはありません。
メーカーには工場や鋼材ごとにロールをかける「最低ロット」という考えがあり、当該月の注文量がこれを超えた場合にロールをかける方法をとっています。
このロールをかける「最低ロット」の考え方は、1社の注文量のみが対象になるわけではなく、複数社から同様の注文が入った場合も算定対象になります。
つまり、希望する鋼材注文量が少量の場合でも、他の商社もしくは問屋からの同様の注文を合計した量が最低ロットを超えればロールが成立します。
上記理由により、物価本のひも付き販売価格には取引数量に関する記載が一切ありません。
最後に
以上で、”ひも付き販売価格”の積算方法の注意点の記事を終わります。
”ひも付き販売価格”については、(一財)建設物価調査会から発行されている「よくわかる鉄鋼積算ハンドブック」がより網羅性が高い情報が数多く掲載されていますので、ひも付き販売価格を積算で使用される場合は参考にして頂くことを強くオススメします。Web建設物価を契約している場合は電子書籍版を無料で読むことができます。
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