高力ボルトの積算方法についてまとめました。
橋梁補修工事などで既設部材の補修・補強を行う際、高力ボルトによる摩擦接合継手で計画されることが多いかと思います。
補修工事で行う高力ボルトの本締めは、国土交通省 土木工事標準積算基準書には記載が無く、『橋梁架設工事の積算(一般社団法人 日本建設機械施工協会)』もしくは『橋梁補修工事の施工手順(一般財団法人 建設物価調査会)』に掲載されている協会歩掛で積算します。
施工本数が少ない場合は、「橋梁補修補強工事 積算の手引き」参考資料-3「極小規模作業の積算要領」で計上する必要があります。
また、トルシア型高力ボルトを使用する場合はピンテール破断面の処理費用の別途計上が必要です。
高力ボルトとは
高力ボルトとは、一般に使用されるボルトよりも高い引張強度を持つボルトです。その高い引張強度を利用し、ナットを強く締め付けることで部材同士を強力に押し付け合わせて固定します(専門用語で接合といいます)。高力ボルトによる接合は、作業に特殊な技能を必要とせず、管理も溶接に比べると簡単です。高力ボルトの接合法としては、摩擦接合、支圧接合、引張接合の3つの考え方があります。
摩擦接合
摩擦接合は、ボルトによる軸力で部材同士を締め付け、両者の間に生じる摩擦力で接合する方法です。摩擦接合は橋梁の部材の接合方法として最も多く使用されています。
ボルト孔の精度管理について、高い精度を必要としない接合方法です。
支圧接合
支圧接合は、ボルト軸部のせん断抵抗やボルト軸部と部材間の支圧抵抗の力を接合する力として考慮する接合方法です。
摩擦接合と比較して許容応力度を約50%高く設定できますが、接合するボルトと孔に”ほぼ”すき間が生じていないことが前提の接合方法であるため、ボルト孔の精度管理が高いレベルで求められます。
この接合方法を適用する場合は継手性能の特徴を考慮してその施工性を十分検討する必要があります。
支圧接合とする場合は、支圧接合用打込み式高力ボルト(B8T、B10T)を使用します。
引張接合
引張接合はボルト軸と同じ方向の力を伝達する接合方式です。継手面を有する2枚の板を高力ボルトで直接締付けて接合する形式(短締め形式)と継手面を有する板を直接締付けずに、リブプレート等を介して高力ボルト、鋼ロッドやPC鋼棒等で締付けて接合する形式(長締め形式)があります。
短締め形式では、てこ作用によりボルトに”てこ反力”と呼ばれる付加力が生じるので、これを小さくするための構造詳細等について十分な検討を行うとともに、ボルト付加力に対して安全となるように設計する必要があります。
高力ボルト材料の紹介
摩擦接合用高力六角ボルト
摩擦接合用高力ボルトとしてJIS B 1186で規定されています。機械的性質による種類として、第1種(F8T)と第2種(F10T)に分類されており、高力ボルト1個、ナット1個、座金2枚でワンセットです。建築では鉄骨建築工事に、土木では橋梁などの鋼構造物に使用されます。締付け方法は、トルク法、ナット回転法、耐力点法があります。
後述するトルシア形高力ボルトの方が、同等の機械的性質を持ちつつも、施工及び施工後の検査が高力六角ボルトよりも容易であるため標準的に使用されます。そのため、高力六角ボルトが使用される機会はあまりありません。
トルシア形高力ボルト
トルシア形高力ボルトは、ボルト軸部先端に締付けトルクを受け持つピンテール(つかみ部)を有するボルトです。締付けの際にピンテール基部の破断溝が一定のトルクで破断するため、締付けトルクを容易に導入することができます。トルシア形高力ボルト1個、ナット1個、座金1枚でワンセットです。締付け方法はトルク法に分類されます。
なお、トルシア形高力ボルトについては建築と土木で規格に違いがあるためJIS化されていません。
【 建築 】
国土交通大臣がメーカー毎に認定 = JIS製品と同等に扱う
【 土木 】
道路橋示方書 では日本道路協会規格の「摩擦接合用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット」によるとしています。この規格ではJIS B 1186の高力ボルト(F10T)相当としてS10Tを規定しています。
溶融亜鉛めっき高力ボルト
溶融亜鉛めっきを施した部材の接合では、高力ボルトにも部材と同様のめっきを施した溶融亜鉛めっき高力ボルトが使用されています。規格としてはJIS B 1186の第1種(F8T)に準拠しています。
溶融亜鉛めっきに際し、めっき浴槽の温度がボルトの焼戻し温度以上となります。これは熱影響が大きく、F10T高力ボルトで規定する強度の保証ができない状態となります。
そのため、F10T規格の溶融亜鉛めっき高力ボルトは現時点ではありません。
支圧接合用高力ボルト
支圧接合には支圧接合用打込み式高力ボルトが用いられます。品質については日本道路協会規格の「支圧接合用打込み式高力ボルト、六角ナット、平座金暫定規格」に規定されています。等級はB8T及びB10Tがあり、それぞれJIS B 1186の高力ボルト1種および2種に相当する機械的性質を有しています。
支圧接合継手では適切な径のボルト孔をあけ、支圧接合用高力ボルトを手持ちハンマなどで打込みます。
ワンサイドボルト
角形鋼管や箱形断面など、閉合断面である場合は高力ボルトの本締め作業が困難であるため、ハンドホールを開けてボルト施工したり、現場溶接したり、工夫しながら施工していました。これに対し、片側から施工できる高力ボルトとして開発されたのがワンサイドボルトです。
摩擦接合用高力ボルトとして使用する場合は、F8T相当の引張強度と軸力を確保しています。
恐らく、動画を見て頂いた方が理解が早いので掲載します。
※再生すると音が出ますので注意してください。
まだ指針の整備などが追いついていない印象ですが、今後採用される機会が増えてくると思います。
ワンサイド高力ボルトの現時点の土木業界の動向は「道路構造物ジャーナルNET」に詳しい情報があります。サイト内検索で「ワンサイドボルト」と検索されると良いかと思います。
F10TとS10T 名称の意味
現在、建築及び土木に使用されている高力ボルトは、高力六角ボルト(JIS B 1186) とトルシア形高力ボルト(JSS Ⅱ-09)との2種類があり、高力六角ボルトはF10T、トルシア形高力ボルトはS10Tとしています。これらは、それぞれのボルトの機械的性質による等級を示す記号です。F10T のF は、Friction(摩擦)のFを表しており、S10TのSはStructural(構造)のSを表しています。10は引張強さ1000N/㎟ の略号であり、Tはボルトの引張試験による引張強さであるTensile Strength のT です。
高力ボルトのQ&Aー高力ボルトのF10T、S10Tの意味は何か。 高力ボルト協会(http://www.kouriki-bolt.jp/qa/faq)
F10T=Friction(摩擦)の F
S10T=Structural(構造)の S
ただし、どちらも摩擦力で接合します。
高力ボルトの積算方法
橋梁補修工事の積算方法
国土交通省 土木工事標準積算基準書
橋梁補修工事における高力ボルト締付け作業の積算基準はありません。
よって、橋梁補修などでの高力ボルト施工の積算に当たっては、以下の選択肢となります。
(1)『橋梁架設工事の積算』もしくは『橋梁補修の解説と積算』に記載の歩掛で積算する
(2)施工費に関する見積もりを取り、これを根拠として積算する
基本的には(1)で積算すれば良いかと思います。
橋梁補修工事は、構造物新設と異なり小ロット施工となる作業が多くなります。そのため、必要に応じて(2)で参考見積もりを取りつつ積算していくことが多いです。
高力ボルトの施工手間については『橋梁架設工事の積算』で「極小規模作業の積算要領」もありますので基本的には(1)のみで対応可能と思います。
『橋梁架設工事の積算』
『橋梁架設工事の積算(一般社団法人 日本建設機械施工協会)』では、下記の作業について歩掛の掲載があります。
・高力ボルト本締工
・高力ボルト取替工
・ワンサイドボルト本締工
・特殊HTB工
・支圧HTB工
『橋梁補修の解説と積算(一般財団法人 建設物価調査会)』にも同様の歩掛が掲載されています。ただ、こちらの『橋梁架設工事の積算(一般社団法人 日本建設機械施工協会)』は国土交通省 積算基準の元になっている本ですので信頼性が高いです。どちらにも掲載がある場合は『橋梁架設工事の積算』から積算しているとした方が良いかと思います。歩掛は全く同じです。
『橋梁補修の解説と積算』
『橋梁補修の解説と積算(一般財団法人 建設物価調査会)』では、下記の作業について歩掛の掲載があります。
・補修工事高力ボルト本締め工 ※『橋梁架設工事の積算』と同様
・高力六角ボルト撤去工
・トルシア型高力ボルト撤去工
・高力ボルト取替工 ※『橋梁架設工事の積算』と同様
・ワンサイドボルト本締め工 ※『橋梁架設工事の積算』と同様
・特殊HTB工(孔明け+本締工連続作業) ※『橋梁架設工事の積算』と同様
・支圧HTB工(孔明け+打込み+本締工連続作業) ※『橋梁架設工事の積算』と同様
『橋梁補修の解説と積算』は基本的には『橋梁架設工事の積算』と同様ですが、ボルト撤去工のみ独自歩掛として追加されています。
『橋梁架設工事の積算』では高力ボルト本締め工が落橋防止装置工にあることなど、各種歩掛が散らばって掲載されているため大変読みにくい構成になっています。一方、『橋梁補修の解説と積算』では、高力ボルト工(リベット含む)としてまとめられています。読み手に配慮された掲載がされており、作業内容の紹介写真も豊富で大変読みやすいです。
積算する際の注意点
高力ボルト本締工 ー 施工本数が少ない場合
施工本数が少ない場合は注意が必要です。施工本数が日当り施工量に満たない場合は、「橋梁補修補強工事 積算の手引き」より”極小規模作業の積算要領”に則って積算する必要があります。
”極小規模作業の積算要領”は、例えば常用で人工見積もりする場合とほぼ同様の考え方です。恐らくですが、市町村などの発注ではほとんどが”極小規模の積算要領”に当てはまると思います。
ピンテール破断面の処理費用
トルシア型高力ボルトを施工した際はピンテールの破断面にバリが残ります。このバリは鋭利な形状になることが多く、塗膜が十分に付きにくいため塗装前にグラインダーなどでバリ取り作業をします。
ピンテール破断面の処理作業については、鉄粉を吸引・飛散防止しながら作業することができるNETIS(CB-090009-VE)のピンテール破断面のバリ研削機(ボルトシェーバー)を用いることが多いかと思います。
ピンテール破断面の処理費用は、高力ボルト本締め工に含まれていないため別途計上する必要があります。『橋梁架設工事の積算』『橋梁補修の解説と積算』の両誌に「ピンテール仕上げ工」という歩掛が掲載されていますので、こちらをトルシア形高力ボルト本数分計上してください。
計上していない場合も多く見られますが、鋼道路橋防食便覧では塗装前に実施が必要とされている作業です。
最後に
以上で、橋梁補修工事で使用する高力ボルトの積算方法のまとめ記事を終わります。
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