道路盛土や構造物計画箇所において実施する盛土載荷重工法(プレロード盛土、サーチャージ盛土)についてまとめます。
プレロード盛土とサーチャージ盛土は軟弱地盤上に盛土をする場合は必ず出てくる用語ですが、作業内容が類似しているためか混同して使っている方が多い印象です。
この記事を読んでいただければ、語句を理解して使い分けがバッチリ出来るようになると思います。
工法と原理
盛土載荷重工法の原理としては2種類とも同じで「盛土で荷重をかけることにより、粘性土地盤の圧密を進行させること」が目的です。
圧密とはサンドマットの記事で書きましたが「地盤が水の排出と共に体積が減少する現象」のことです。
プレロード工法
プレロード盛土 → 構造物の施工前に行う工法
プレロード工法は、構造物が計画されている箇所において下記と同等もしくはそれ以上の荷重をかけて強度増加を図ります。
(1)計画している構造物の重量
(2)隣接する盛土の重量
(1)と(2)を比較して重い方が対象になります。
荷重は盛土によって載荷します。
現地盤の圧密を十分進行させて強度増加が確認できた後は、プレロードしていた盛土は撤去します。
プレロード盛土撤去後、構造物を施工します。
余盛り工法(サーチャージ盛土)
余盛り工法(サーチャージ盛土)→ 一般盛土区間に行う工法
余盛り工法(サーチャージ盛土)工法は、計画高さ以上に盛土を高く施工して圧密を十分進行させた後、余盛り分を取り除いてから舗装を施工する工法です。
圧密沈下後に完成断面よりも高くなるように施工し、最終的に切土をして仕上げます。
工事発注の流れとして、まず前期工事でサーチャージ盛土を行い、後発の後期工事で切土・法面整形して舗装といった流れになることが多いです。
概念と原理
上記図は、プレロード工法と余盛り工法の概念図です。
両者とも似ている図になっていますが、
プレロード工法が荷重
余盛り工法が盛土高
について書かれている図であることに注意してください。
文字で説明すると分かりにくくなってしまいますので、ポイントだけ下記にまとめます。
・プレロードもしくは余盛り撤去後は沈下量がリバウンドすること
・プレロード工法では プレロード荷重 = 構造物 + 盛土となっていること
・余盛り工法では計画盛土高よりも高く盛土すること
続いて原理です。
上記は、原理に関しての図面です。
(おそらくですが、b図の下側関数HE1とHE2は反対に誤記されています。)
以下、引用文です。少し長くなってしまいますので、読み飛ばしていただいてもOKです。
正規圧密地盤上によ余盛り工法を適用する事例を対象として、盛土載荷重工法の原理を説明する。解図6-52(a)において計画盛土高HE1と余盛り高ΔHEを考慮した盛土高HE2(=HE1+ΔHE)を考える。HE1とHE2に対応する全沈下量を、それぞれS1とS2とする。次に、解図6-52(b)において、盛土高HE1まで載荷後Δt時間経過したときの時間tにおける圧密度をU1とするち、沈下量はS1・U1になり、圧密沈下の途中における時間t以後の残留沈下量はΔS1となる。これに対し、さらにΔHEの余盛りを加えた盛土高HE2に対応する全沈下量はS2で、時間tにおける圧密度はおおむねU1であるから沈下量はS2・U1となる。この時点でΔHEを除荷すれば、盛土高HE1に対しては、解図6-52(a)に示すように圧密度U2(=U1+ΔU)まで達することができたことになる。すなわち、計画盛土高HE1でU1にまでしか達することのできなかった圧密度を、余盛りΔHEをΔt時間載荷することによってΔU分だけ促進したことになる。実際には余盛りが瞬時になされることはなく、また除荷の際に若干の膨張が行われるから圧密促進効果はそれだけ失われることになる。しかし、余盛り高ΔHE及び載荷時間Δtを十分にとることによって時間t後の残留沈下量を解図6-52(b)に示すように、ΔS1からΔS2に減少させることが可能になる。
P.246『道路土工 軟弱地盤対策工指針(平成24年度版)』−公益社団法人 日本道路協会
この説明文で要点となる部分は、最後の部分です。
余盛り高ΔHE及び載荷時間Δtを十分にとることによって時間t後の残留沈下量を(中略)ΔS1からΔS2に減少させることが可能になる。
この原理より、『余盛り高を高くとり放置期間を長くとることが構造物や盛土後の沈下抑制に有効である』ことが分かります。
設計・施工上の留意点
載荷重量の正確な把握
盛土の載荷重量を正確に把握することで、事前検討していた載荷重に対する圧密沈下量と比較ができるようになります。なお、把握の結果、載荷重量が足りていない場合は追加盛土をする必要がありますので注意してください。
載荷重量の正確な把握には単位体積重量を確認しなければなりません。
単位体積重量の確認方法は基準には定められていませんが、経験的に以下の方法を用いるのが一般的かと思います。
・現場密度試験結果を集計して平均する
・試験施工して升立て盛土を行い正確な重量と体積を元に単位体積重量を計算する
可能な限り載荷重を大きくし、可能な限り放置期間を長くする
さきの原理図より、『余盛り高を高くとり放置期間を長くとることが構造物や盛土後の沈下抑制に有効である』ことが分かっていますので、これに従って施工することで沈下量を小さくすることができます。どれだけ余盛りするかは現地盤の情報及び目標とする残留沈下量と放置期間より定めます。
プレロード盛土撤去後は地盤の強度評価をする
これは必ずしも実施する必要はありませんが、プレロード盛土撤去後は地盤の原位置試験して強度を評価することが望ましいとされています。強度の確認には、以下の方法が挙げられます。
・ボーリング調査及び標準貫入試験によりN値を確認する
・地耐力試験により極限支持力を確認する
別途地盤改良などしている場合は実施不要かと思います。
盛土中は動態観測をする
緩速載荷工法を実施する場合と同様に、盛土中及び盛土後の盛土沈下量について動態観測します。
緩速載荷工法については下記の記事を見てください。
動態観測とは、盛土による沈下量の観測のことです。
地盤工学会の『JGS 1712 沈下板を用いた地表面沈下量測定』に従って観測します。
また、側方地盤の流動が懸念される場合は、沈下板以外にも変位杭などを設置して側方地盤の変形量を観測することが必要です。
動態観測の結果、予測よりも圧密が進行しない場合はプレロード撤去後もしくは盛土後の残留沈下量が大きくなることが予想されます。放置期間の延長など盛土計画の再検討を行いましょう。
積算する上での注意点
施工費については国交省施策のi-Construction推進により、盛土工事はICT土工の試行対象とされることが多いかと思います。関係する通達や、積算基準などをよく読み込み適切に計上してください。
沈下板の設置
沈下量の観測のために”沈下板”の設置が必要になります。
地盤工学会の『JGS 1712 沈下板を用いた地表面沈下量測定』に従って観測することになりますので、補足情報として読んでおいた方が良いです。
沈下板の設置及びその後の動態観測(盛土の沈下量観測のことです)に関する費用の精算については、積算基準でガイドラインが示されておらず、各発注者ごとでも取り扱い方法が決まっていない場合がほとんどだと思います。
そのため、積算での計上の是非については曖昧なまま発注されている場合が多いのが現状です。
沈下板の設置(特に地盤改良後の盛土工事を合わせて発注する場合)は、
・沈下板の設置費用
・動態観測費
の項目について特記仕様書などで条件明示した上で発注することが望ましいです。
なお、蛇足ですが軟弱地盤の動態観測費については『全国標準積算資料 土質調査・地質調査 (一社)全国地質調査業協会連合会』に調査歩掛が掲載されています。
こちらは、調査委託の歩掛なので工事積算にはそのまま計上できないことに注意が必要です。
サーチャージ断面の法面整形
サーチャージ盛土後は完成断面に切土するまで放置期間を取ることになります。一方で、サーチャージ盛土した際に法面整形を計上するかしないは基準が定められていないため発注者の方は悩むところだと思います。サーチャージ盛土で完了する工事であれば、工事の”できばえ”に影響しますので法面整形工を計上するのが一般的かと思います。
なお、サーチャージ盛土から完成断面まで完了する工事を一括発注する場合、サーチャージ盛土→法面整形→(放置期間)→完成断面切土→法面整形となり、「設計書上で法面整形を2回みているが、これは過剰ではないか?」と判断される恐れがあります。これについては、計上する場合も計上しない場合も、理由についてしっかりとした説明ができるよう整理しておいた方が良いかと思います。
沈下後に道路路床となる部分の扱い
サーチャージ断面の中に沈下完了後に道路路床となる部分が出てきます。
路床になる部分については品質管理上、路床相当の管理が求められますので路床盛土として計上します。
大量の残土
プレロード盛土の撤去後及びサーチャージを完成断面にする過程の中で、大量の残土が発生します。
土砂運搬費用は盛土工事設計書を作る上では大きな割合を占める費目です。
工事費は運搬距離や残土の受入処分費の有無によって大きく変動しますので、できる限り早期の段階から残土の取り扱い計画について関係先と調整しておくことが望ましいです。
なお、土砂運搬については下記の記事に詳しくまとめてありますので、一度確認していただいてから積算に入ると確実かと思います。
最後に
以上で、盛土載荷重工法(プレロード盛土及び余盛り工法)に関するまとめを終わります。
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