特定建設作業についてまとめました。
工事実施にあたり行政が定めている指定地域内で特定建設作業を行う場合、騒音・振動が規制基準値を超える作業は実施することができません。
このような現場条件が想定される場合は、工事の予定価格作成においても現地条件を把握した上で適切な積算を行うことが必要とされます。
一方、そもそも「特定建設作業」や「指定地域」とはどういった内容なのか、きちんと理解されている方は少ないのではないでしょか。
この記事では以下のことについてまとめました。
・騒音規制法と振動規制法
・特定建設作業とは
・指定地域とは

細かいところを理解しないままでも、ソフトや積算基準に任せれば発注時の積算は出来てしまいます。
ただ、想定する現場条件を把握した上で発注することは、適切に設計変更をするためにも大切なことです。
騒音規制法と振動規制法
「公害」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
戦後の経済復興を優先した昭和30〜40年代の高度成長期において、経済の急速な発展とそれに伴う汚染物質の環境中への排出は生活環境の急速な悪化をもたらしました。
この頃、社会問題化した代表例が「水俣病」「新潟水俣病」「イタイイタイ病」「四日市ぜんそく」いわゆる四大公害病です。
「公害」が社会問題化する以前は、各地方公共団体が地域の実情に応じた規制を行っていました。一方、社会問題化して以降、統一的な公害対策が必要との社会的要求があり、それによって制定されたのが「公害対策基本法(昭和42年8月)」です。
なお、公害対策基本法は現代の環境政策に合わせてブラッシュアップされ、現在は「環境基本法(平成5年11月)」に名前を変えて運用されています。
特定建設作業は
・騒音規制法(昭和43年制定)
・振動規制法(昭和51年制定)
が元になっています。
これらは大筋では現在の「環境基本法」の関連法規です。

公害対策基本法や環境基本法については、前段の話を受け止めて頂いた上でこの先の話を進めた方が良いと思い、記載させて頂きました。
これ以降は出てきません。
積算作業をする上で把握しておいて頂きたいのは、「特定建設作業」と「指定地域」です。
これらは上記の「騒音規制法」および「振動規制法」を元に定められています。

騒音規制法と振動規制法の関連法令は構成や内容が似ている部分が多数あります。
例えば、
・評価基準に同じ「dB(デシベル)」を使う
・言い回しが同一である部分が多数
などです。
そのため、どちらか一方を主軸としてポイントとなる部分が理解できれば、全体としての理解は難しくはありません。ただし、それぞれ独立した法律であることは忘れないでください。
騒音規制法
騒音規制法は工場などの稼働、もしくは建設工事に伴って発生する騒音などに対して必要な規制を行うために制定された法律です。
原文を引用すると以下の通りです。
第一条 この法律は、工場及び事業場における事業活動並びに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を行なうとともに、自動車騒音に係る許容限度を定めること等により、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする。
第一章 総則 第一条(目的)騒音規制法(昭和四十三年法律第九十八号)ー e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
振動規制法
振動規制法は騒音規制法と同じく、工場などの稼働、もしくは建設工事に伴って発生する振動などに対して必要な規制を行うために制定された法律です。
騒音規制法に8年遅れて昭和51年に制定されました。
原文を引用すると以下の通りです。
第一条 この法律は、工場及び事業場における事業活動並びに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる振動について必要な規制を行うとともに、道路交通振動に係る要請の措置を定めること等により、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする。
第一章 総則 第一条(目的)振動規制法(昭和五十一年法律第六十四号)ー e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
両規制法の詳しい情報については、リンク先で確認して頂ければと思います。
騒音規制法関連法令へのリンク
(e-Gov法令検索内キーワード「騒音規制法」)
振動規制法関連法令へのリンク
(e-Gov法令検索内キーワード「振動規制法」)
まとめ
建設工事の観点からまとめると両法律は主に以下の2つについて取り扱いを定めています。
・生活環境を保全する地域の指定
・特定建設作業の定義
細かい条文まで理解しておく必要はありません。
騒音規制法と振動規制法が「指定地域」で行う「特定建設作業」の取り扱いについて定め、規制している法律であることを最低限覚えておいてください。
なお、実際の地域の指定については都道府県知事もしくは市長が指定することとされています。
指定地域は各自治体のホームページで公表されています。工事施工箇所が該当しているか把握した上で積算作業をすることが望ましいです。

具体的な特定建設作業については政令で定めるとされており、後述する「騒音規制法施行令」と「振動規制法施行令」で定められています。

指定地域内で特定建設作業を実施する場合は、作業開始日の7日前までに市町村長に届け出なければならないとされています。
特定建設作業とは
特定建設作業とは建設工事として行われる作業のうち、著しい騒音もしくは振動を発生する作業であって政令で定められているものです。
騒音規制法施行令
騒音規制法の実施に当たっては以下の政令が制定されており、特定建設作業はこれを元に定義されています。
(特定建設作業)
第二条(特定建設作業)騒音規制法施行令(昭和四十三年政令第三百二十四号)ー e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
第二条 法第二条第三項の政令で定める作業は、別表第二に掲げる作業とする。ただし、当該作業がその作業を開始した日に終わるものを除く。
別表第二(第二条関係)
1.くい打機(もんけんを除く。)、くい抜機又はくい打くい抜機(圧入式くい打くい抜機を除く。)を使用する作業(くい打機をアースオーガーと併用する作業を除く。)
2.びょう打機を使用する作業
3.さく岩機を使用する作業(作業地点が連続的に移動する作業にあつては、1日における当該作業に係る2地点間の最大距離が50mを超えない作業に限る。)
4.空気圧縮機(電動機以外の原動機を用いるものであって、その原動機の定格出力が15kW以上のものに限る。)を使用する作業(さく岩機の動力として使用する作業を除く。)
5.コンクリートプラント(混練機の混練容量が0.45m3以上のものに限る。)又はアスファルトプラント(混練機の混練重量が200kg以上のものに限る。)を設けて行う作業(モルタルを製造するためにコンクリートプラントを設けて行う作業を除く。)
6.バックホウ(一定の限度を超える大きさの騒音を発生しないものとして環境大臣が指定するものを除き、原動機の定格出力が80kW以上のものに限る。)を使用する作業
7.トラクターショベル(一定の限度を超える大きさの騒音を発生しないものとして環境大臣が指定するものを除き、原動機の定格出力が70kW以上のものに限る。)を使用する作業
8.ブルドーザー(一定の限度を超える大きさの騒音を発生しないものとして環境大臣が指定するものを除き、原動機の定格出力が40kW以上のものに限る。)を使用する作業
別表第二(第二条関係)騒音規制法施行令(昭和四十三年政令第三百二十四号)ー e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
上記の中のうち、6.バックホウ、7.トラクターショベル、8.ブルドーザーについては、平成9年以降に追加された項目です。これら3種は「一定の限度を超える大きさの騒音を発生しないものとして環境庁長官が指定するものは除く」とされています。

「環境庁長官が指定するもの」は建設省告示において低騒音型建設機械とされた機種です。(平成9年環境庁告示第54号より)
具体的には、低騒音型・低振動型として国土交通省に登録されている機種が除外対象になります。

上記のステッカーが貼り付けてある機種です。見たことがある方も多いと思います。
詳しくは国土交通省のホームページに掲載されています。
(https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/sosei_constplan_tk_000003.html)

・さく岩機を使用する作業
(手持ち式のハンドブレーカーやバックホウのアタッチメントとして使うブレーカー)
・くい打機を使用する作業
(主にバイブロハンマ。たまに油圧ハンマ)
については騒音規制法の対象となる特定建設作業としてよく名前が上がります。
振動規制法施行令
振動規制法の実施に当たっては政令として振動規制法施行令が制定されており、特定建設作業はこれを元に定義されています。
(特定建設作業)
第二条(特定建設作業)振動規制法施行令(昭和五十一年政令第二百八十号)ー e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
第二条 法第二条第三項の政令で定める作業は、別表第二に掲げる作業とする。ただし、当該作業がその作業を開始した日に終わるものを除く。
別表第二(第二条関係)
1.くい打機(もんけん及び圧入式くい打機を除く。)、くい抜機(油圧式くい抜機を除く。)又はくい打くい抜機(圧入式くい打くい抜機を除く。)を使用する作業
2.鋼球を使用して建築物その他の工作物を破壊する作業
3.舗装版破砕機を使用する作業(作業地点が連続的に移動する作業にあっては、1日における当該作業に係る2地点間の最大距離が50mを超えない作業に限る。)
4.ブレーカー(手持式のものを除く。)を使用する作業(作業地点が連続的に移動する作業にあっては、1日における当該作業に係る2地点間の最大距離が50mを超えない作業に限る。)
別表第二(第二条関係)振動規制法施行令(昭和五十一年政令第二百八十号)ー e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
騒音規制法と内容は似通っていますが、特定建設作業の内訳は異なっています。

【補足情報】
・バックホウによる舗装版の剥取り
・路面切削作業
上記は「舗装版破砕機を使用する作業」には該当しません。「ハンマを落下させるもののみ」が対象になります。
出典:よくわかる建設作業振動防止の手引きー環境省
出典:建設作業振動対策の手引きー環境省

・くい打機を使用する作業
(主にバイブロハンマ。たまに油圧ハンマ)
については振動規制法の対象となる特定建設作業としてよく名前が上がります。
なお、振動規制においても指定機械に貼り付けするステッカーがあります。

バイブロハンマと山積0.5m3以上のバックホウのうち、振動基準値以下の低振動機種と指定された機種のみ貼り付けることができるステッカーです。低騒音型のステッカーと比較すると、目にする機会が少ないかと思います。
国土交通省では生活環境を保全すべき地域で行う工事では、上記の指定機械を使用することを推奨しています。
指定地域とは
都道府県知事もしくは市長が定める
騒音規制法及び振動規制法では指定地域は以下のように定められています。
(地域の指定)
第一章 総則 第三条(地域の指定)騒音規制法(昭和四十三年法律第九十八号)ー e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/)
第三条 都道府県知事(市の区域内の地域については、市長。第三項(次条第三項において準用する場合を含む。)及び同条第一項において同じ。)は、住居が集合している地域、病院又は学校の周辺の地域その他の騒音を防止することにより住民の生活環境を保全する必要があると認める地域を、特定工場等において発生する騒音及び特定建設作業に伴つて発生する騒音について規制する地域として指定しなければならない。
2 都道府県知事は、前項の規定により地域を指定しようとするときは、関係町村長の意見を聴かなければならない。これを変更し、又は廃止しようとするときも、同様とする。
3 都道府県知事は、第一項の規定により地域を指定するときは、環境省令で定めるところにより、公示しなければならない。これを変更し、又は廃止するときも、同様とする。

振動規制法については騒音規制法と概ね内容が同様であるため割愛します。
大事な部分については赤字で示しました。
上記より、地域の指定は都道府県知事もしくは市長が行うこととされています。
指定地域の紹介ー神戸市の例
ここでは指定地域の例として、神戸市について紹介したいと思います。

神戸市では都市計画法における用途地域に指定されている地域を「指定地域」としています。
他の自治体においても同様の方法で指定している場合が大半です。
なお、神戸市の場合は「指定地域との境界から100m以内の工業専用地域及び臨港地区」についても兵庫県条例で騒音の規制対象地域にするとされています

工事発注の際には工事箇所が指定地域に該当していないか、確認した上で積算することが望ましいです。
建設工事に伴う騒音振動対策技術指針
建設工事における具体的な騒音振動対策については、国土交通省が「建設工事に伴う騒音振動対策技術指針(昭和62年改正)」を定めています。
この指針では、建設工事に伴う騒音、振動の防止について騒音規制法、振動規制法から指定される区域の他に、以下の区域に適用するとされています。
(1) 良好な住居の環境を保全するため,特に静穏の保持を必要とする区域
(2) 住居の用に供されているため,静穏の保持を必要とする区域
(3) 住居の用にあわせて商業,工業等の用に供されている区域であって相当数の住居が集合しているため,騒音,振動の発生を防止する必要がある区域
(4) 学校・保育所,病院,診療所,図書館,老人ホーム等の敷地の周囲おおむね80mの区域
(5) 家畜飼育場,精密機械工場,電子計算機設置事業場等の施設の周辺等,騒音,振動の影響が予想される区域

指定地域と合わせ、上記の地域内で作業する場合においては「騒音・振動対策有り」と考えるのが一般的かと思います。
特定建設作業について考える時の注意点
騒音規制法と振動規制法の関連法令は「最低ライン」
実際の苦情が多い工種は「建築解体工事」が多く「バックホウ、小型バックホウ」による作業が比較的大きな割合を占めます。
(出典:よくわかる建設作業振動防止の手引きー環境省)
ただし、法令を遵守していたとしても苦情は来ます。
騒音規制法と振動規制法の関連法令はあくまで「最低ライン」と考えて事業実施を進めた方が良いです。

苦情の防止は事前対策が基本です。
指定区域内での工事実施にあたっては、工事受注者さんとの協力のもと”段取り八分”で進めていくことが後々のトラブル回避に最も有効となります。
工事箇所での請負契約実施に当たって適切な工事費となるよう、周辺環境に配慮した施工計画を想定し、それに基づいた積算をするようにしましょう。
最後に
この記事は特定建設作業についての基礎知識を得るための記事内容としました。
より詳しい情報については、「建設工事に伴う騒音振動対策ハンドブック(日本建設機械施工協会)」がバイブルとされていますので、こちらを参照して下さい。第3版が最新版です。
ただし、こちらの書籍は販売終了となっておりますので、新品購入することは難しいかと思います。
以上で、特定建設作業についての記事を終わります。
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