工事請負契約約款についてまとめました。
工事請負契約約款とは工事発注者が効率的な契約事務をするためにあらかじめ作成した定型的な契約条項のことです。
建設業法では「標準請負契約約款を中央建設業審議会(中建審)が作成、実施について勧告する」(建設業法第34条第2項)とする旨が定められており、
各工事発注者は中建審が勧告した「公共工事標準請負契約約款」をひな型にして所属組織の運用方針に合うように修正したものを運用しています。
公共工事標準請負契約約款(令和4年9月2日改正)
(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001499463.pdf)
掲載元URL:https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000092.html
各発注者の契約約款は「公共工事標準請負契約約款」に従って作られるため、内容についてはほとんど同様です。
ここから先は「工事請負契約約款」についての解説です。
約款の定義
約款は”やっかん”と読みます。
インターネットで検索しても約款という言葉自体についての”正確な”定義は出てきません。
これは、約款という言葉そのものの定義が民法などで規定されていないためです。
この記事をご覧になられている方は、恐らく建設業界の方、特に工事請負契約約款について情報収集をされている方だと思います。
言葉の定義が曖昧なままですと、ぼやけた理解になってしまう可能性があります。
そのため、約款の定義についてはある程度はっきりとした言葉として覚えておくことがおすすめです。
土木積算.comでは工事請負契約約款について以下のように考えています。
「工事発注者が効率的な契約事務をするためにあらかじめ作成した定型的な契約条項」
このサイト内で扱う「約款」という語句についての言葉の定義です。
他に適当な定義を示しているソースが見当たらないため、上記のように定義しました。
約款を用いるメリット
工事発注・契約をする際の発注者が求める共通の取り決め事項について、あらかじめ約款として記載・周知しておくことにより、契約条件などの取り決め事項を相互確認する事務作業を減らすことができます。
特にトラブルが実際に起こってしまった際の責任の所在について明確化するための指標となります。
実施工を行う上で、約款が最も効果的に活用されている部分は契約する際の「指定」と「任意」に関わる部分です。
標準請負契約約款第一条 3項 仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段(以下「施工方法等」という。)については、この約款及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、受注者がその責任において定める。
工事受注者と請負契約を交わす上での約款上の最も大事な文面のうちの一つが上記の部分です。
特別の定めがある場合=「指定」
それ以外=「任意」
工事契約における根幹部分ですのでしっかり理解しておく必要があります。
約款の問題点
一方で、契約する際に約款を用いることについてはいくつか問題点を含む場合があります。
わかりやすく解説されているサイトがありましたので引用します。
約款は多数の消費者を対象とするため内容を変更する際に消費者一人ひとりに同意を求めるのが難しく、事業者側としては定型的な文書を作成することによって同意を求めたい、一方的な変更を可能にしたいというニーズが発生します。
対して消費者側は約款を個別に承認したわけではなく、中には不利な条項も存在するにも関わらず内容に拘束されることに疑問を抱いているという問題点がありました。さらに、条項の中には事業者が一方的に内容を変更でき、その理由が明確化されていないものもあることからトラブルが起こってしまうリスクが潜んでいました。
電子契約書コラム「民法改正によって新設された定型約款とは?内容について解説」(https://column.greatsign.com/category/agreement/article/1834)
上記の引用文について消費者を「工事受注者」、事業者を「工事発注者」と読み替えると分かりやすいかと思います。
読み替えた場合の問題点について整理します。
工事発注者
多数の契約先である工事受注者に対して定型的な文書によって同意を得ておきたい、かつ、契約条項を変更する場合には一方的な変更を可能にしたい。
工事受注者
約款について各契約ごとに個別に説明を受けるわけでは無く、不利な条項がある場合においても約款内容に拘束されてしまう。
公共工事では工事受注者が工事請負契約約款について合意をしている前提で契約することから、約款の内容について相互に以下の努力を求められます。
工事発注者
約款の内容を抜け漏れなく周知する。
工事受注者
約款の内容を理解した上で施工を進める。
工事請負契約約款の目的
前述した約款そのものについての問題点は建設業法においても懸念点とされています。
この問題点によるトラブル発生を防ぐために設けられているのが、標準請負契約約款です。
国土交通省のホームページより当該部分について記載されている部分を引用します。抜粋して引用しますので、原文についてはリンク先で確認して下さい。
建設工事の請負契約は、本来、その契約の当事者の合意によって成立するものですが、合意内容に不明確、不正確な点がある場合、その解釈規範としての民法の請負契約の規定も不十分であるため、後日の紛争の原因ともなりかねません。また、建設工事の請負契約を締結する当事者間の力関係が一方的であることにより、契約条件が一方にだけ有利に定められてしまいやすいという、いわゆる請負契約の片務性の問題が生じ、建設業の健全な発展と建設工事の施工の適正化を妨げるおそれもあります。
建設工事標準請負契約約款について ー 国土交通省 (https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000092.html)
このため、建設業法は、法律自体に請負契約の適正化のための規定(法第3章)をおくとともに、それに加えて、中央建設業審議会(中建審)が当事者間の具体的な権利義務の内容を定める標準請負契約約款を作成し、その実施を当事者に勧告する(法第34条第2項)こととしています。
上記について整理すると以下の通りです。
・不明確、不正確な合意によるトラブルを避けたい
・請負契約の仕組み上、発注者の力関係が強くなりやすい特性があるため、ひな型的な約款を作成・運用させることにより片務性の発生を防ぎたい
これら問題点の解消のため、中建審が定めているのが標準請負契約約款です。
具体的には4種類に分かれており、以下の通りです。
・公共工事標準請負契約約款
・民間建設工事標準請負契約約款(甲)
・民間建設工事標準請負契約約款(乙)
・建設工事標準下請契約約款
(もしリンク切れになっていた場合は、ご連絡頂けますと助かります。)
公共工事の各工事発注者は中建審が勧告した上記の「公共工事標準請負契約約款」をひな型として所属組織の運用方針に合うように修正したものを運用します。
ひな型部分の約款の作成方法について”◯”や”空欄”になっている箇所以外がありますが、これ以外の部分について各発注者で独自制定している部分は味付け程度であることが多く、基本部分については大きく変わることは無いです。
最後に
以上で、工事請負契約約款についての記事を終わります。
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