あと施工アンカーの積算

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あと施工アンカーの積算方法についてまとめました。

設計段階の図面で「あと施工アンカー」と記載されているものの、細かい仕様について決まっていない場合があるかと思います。

あと施工アンカーは大別すると「金属系」「接着系」に別れますが、その中でも様々な種類に派生する上に明確な設計要領が定まっておらず工事発注するためのを積算する際は予備知識が必要となります。
この記事ではあと施工アンカーの概要説明及び土木積算する際の注意点について記載しましたので、参考にして頂ければと思います。

先に結論を書いてしまうと、
本設で用いる場合「接着系」※上方向及び屋内上部を除く
仮設で用いる場合「金属系」
がおすすめです。

画像左が「金属系」で画像右が「接着系/カプセル方式」です。

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あと施工アンカーとは

あと施工アンカーは建築工事でも取り扱われることが多く、国内では『(一社)日本建設あと施工アンカー協会』が、あと施工アンカーの施工、管理に携わっている技術者の知識・技能を認定する資格の付与、及び製品の認証を行っています。

あと施工アンカーの定義

あと施工アンカーは、「コンクリートなどにあと付けする固着機能を有するもの」と定義されています。

鉄筋組み立て時にアンカー筋やインサートアンカー、金物などを埋込み、コンクリートを打設して固定するものを”アンカー”と呼びますが、これと区別するためにコンクリート構造にあと付けをするものは”あと施工アンカー”と呼ばれます。

特に、補修工事では不可欠な建設資材です。耐震補強工事で差し筋をする場合や、橋梁補修工事でPC桁への吊足場のアイボルト取り付け、支承取り替えでジャッキアップブラケットを取り付ける際のアンカーボルト固定など様々な場所で使用されます。

笹子トンネルの天井板崩落事故

2012年12月2日、中央自動車道上り線笹子トンネルで天井板落下事故が発生しました。

この事故では、トンネルの天井板を吊っていたアンカーボルトが破損したことによって、供用中の車線にコンクリート製の天井板が連続的に落下し、9人の死亡者が出る大惨事となりました。

この事故は社会に大きな衝撃を与え、これを機に国土交通省は2013年を「インフラメンテナンス元年」とし、社会資本の維持管理に積極的に取り組む契機となりました。

笹子トンネルの天井板アンカーボルトの破損は、アンカーボルトの破断、脱落、覆工コンクリートのコールドジョイントなども考えられますが、適切な内容の点検が定期的になされていれば防ぐことができた可能性があったとされています。
また、万が一アンカーボルトが破損したとしても連続的に全体が落下することを防ぐようなリダンタンシー(冗長性)を持たせた設計をしていれば、被害の拡大を食い止められた可能性がありました。

一方、あと施工アンカーそのものについても初期欠陥があることがその後の調査で判明しました。下記、引用です。

笹子トンネルの設計では、ボルトは1本あたり4トンの荷重に耐えられ、仮にボルトを下に引っ張ても抜ける前にボルト自体が折れるようになっているはずだった。しかし、2013年2月1日に発表された国土交通省の検査結果によれば、事故の起きた笹子トンネルの上り線のうち崩落していない区間で183本のボルトに対して強度検査を行ったところ、実際には113本が4トン未満の荷重で抜け落ち、うち16本は天井板やつり金具を支えるための平均荷重1.2トンに耐えることもできない状態だった。この検査結果では、接着剤の経年劣化以外にも、そもそもの接着剤が不足していたことなどが指摘されている。

”笹子トンネル事故、ボルトの6割が想定強度不足”YOMIURI ONLINE.(2013年2月2日)2013年2月3日閲覧ーウィキペディア(Wikipedia:フリー百科事典)

この事故以降、あと施工アンカーの施工に関しては安全性が重要視される傾向となり、有資格者による施工やアンカー引張試験の積極的な実施など、厳格な管理が求められるようになりました。

笹子トンネルの天井板の落下事故については、国土交通省の調査・検討委員会より報告書が公開されています。

【国土交通省】トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/

施工技能が要求される

あと施工アンカーには様々な固定方法の製品があり、ボルトをコンクリート構造に固定するメカニズムはそれぞれで異なります。そのため、施工の際には特性を理解し適切な品質管理を行わなければ所要の性能を発揮することは困難です。

(一社)日本建築あと施工アンカー協会 では協会認定の有資格者によって施工されなければならないとしており、各発注機関が定めている仕様書においても同様の規定としている場合があります。

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金属系

金属系のあと施工アンカーは、「打込み方式」「締付け方式」があります。
どちらも、コンクリート構造に対してアンカーの金属部を「くさび状」にして摩擦力と支圧力を得ることで物理的に固定します。金属拡張式などとも呼ばれます。

打込み方式

芯棒打込み式・・・横および下向き方向の使用が多い
内部コーン打込み式・・・天井および横向き方向の使用が多い
本体打込み式・・・天井および横向き方向の使用が多い
スリーブ打込み式・・・横および下向き方向の使用が多い

打込み方式はハンマーによる打撃でくさび部を拡張します。
施工の終了は目視もしくは打音やハンマーに受ける手応えで確認します。

締付け方式

コーンナット式・・・トルク管理ができ、信頼性が要求される場合に用いられる
テーパーボルト式・・・天井・横・下向き方向の使用が多い
ダブルコーン式・・・トルク管理ができ、信頼性が要求される場合に用いられる
ウェッジ式・・・天井・横・下向き方向の使用が多い

締付け方式はトルクレンチによる回転・締め付けでくさび部を拡張します。
施工の終了はトルクレンチでトルク管理するため、打込み方式と比較すると信頼性は高いです

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接着系

接着系あと施工アンカーでは、アンカー筋の凹凸部とコンクリート母材孔壁の凹凸部に接着剤を充填し硬化させることで固着します。

固着方法としては、カプセルと呼ばれる容器に入った接着剤をアンカー筋で破砕混合しながら埋め込む「カプセル方式」と接着剤の主剤と硬化剤をあらかじめ混合し、孔内に接着剤を充填する「注入方式」があります。

接着系は金属系と比較するとアンカーの引張強度が高く、定着長が長いため高荷重が要求される場合に多く使用されます。ただし、埋込深さは金属系アンカーの約2倍になります。

一般的には『ケミカルアンカー』『カプセル』『インジェクション』と呼ばれたりします。

カプセル方式

カプセル方式は「回転・打撃型」「打込み型」に分類できます。カプセルの破砕方法に若干の違いがありますが、アンカー筋自体(もしくは全ネジボルト)でカプセルを破砕・混合するという過程は同一です。
管理が簡便なガラス菅式が用いられることが多い印象です。

一般的に有機系が用いられることが多く、有機系ではラジカル重合などの重合反応により硬化します。
一方、無機系では通常のコンクリートが硬化する場合と同様で水和反応により硬化します。

なお、カプセルには品質を保証される有効期間があります。
保管方法も若干異なりますので注意が必要です。
有機系・・・直射日光の当たらない冷暗所に保管
無機系・・・高音多湿を避けて乾いた場所に保管

注入方式

注入方式は接着剤の主剤と硬化剤をあらかじめ混合し、注入ガンなどで孔内に接着剤を充填します。

ある程度まとまった量のあと施工アンカーを施工する場合や、
アンカー材径が大きい場合は注入方式を選択します。

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あと施工アンカーの使い分け

構造的に重要な部分及び新設時は使えない

コンクリート構造物を新設する場合などは定着長を確保したアンカー筋を事前に埋め込んでおくことが基本です。

あと施工アンカーは既存構造物の耐震補強や補修工事などに限って使用します。

あと施工アンカーの設計ではアンカーに引張力が作用した際に、

(a)アンカー本体が破断する
(b)アンカー周囲の躯体コンクリートがコーン状破壊する
(c)接着部の付着力を超えアンカー本体が引き抜かれる

上記、(a)〜(c)の3つのモードのうち最も低い強度を検討しますが、
接着部の施工不良、材料特性、経年劣化などによる影響因子が多く、(c)モードとなった場合の強度を一義的に推定することが困難なため計算で安全性を保証することが難しいです。

新設構造物にあと施工アンカーを使用する場合は、
・非構造部材への使用
・作用する引張力が小さい部材の固定(例えば軽量なもの)
などの使用に限られます。

本設は接着式

前述しましたが、接着系アンカーは金属系アンカーと比較するとアンカーの引張強度が高く、定着長が長いため高荷重が要求される場合に多く使用されます。

そのため、本設で使用する場合は接着系アンカーを用いることが推奨されます。

ただし、上方向への施工は注意!

接着式は上方向の施工には注意が必要です。

カプセルを破砕した際及びインジェクションで注入した際、接着剤が垂れてきてしまい充填不良になる恐れがあります。

そのため、製品によっては上向き施工を禁止しているものや、別途接着剤が垂れてくるのを押さえる対策を必要とする場合があります。

建築は屋内での上部使用はアウト

火災発生時の熱による強度低下が懸念されるため、建築分野の基準ではコンクリートなどで保護される場合を除き部材を吊るためなどに使用することは禁止されています。

仮設は金属系

仮設物設置のためもしくはごく軽量なものの設置であれば、金属系アンカーとすることがオススメです。接着系と比較すると定着長が短いため、削孔長が短くて済みます。

かぶり内の設置となることにより、鉄筋探査などが不要になる場合が多いと思います。

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積算する上での注意点

鉄筋探査

あと施工アンカーの施工にあたり、アンカー孔が既設鉄筋に干渉する恐れのある場合は鉄筋探査が必要です。『橋梁架設工事積算の手引き』に鉄筋探査の歩掛がありますので必要面積(m2)を算出し、技術管理費に積み上げてください。

なお、施工量が小規模の場合は別冊の『橋梁補修補強工事積算の手引き』より「極小規模鉄筋探査」として計上する必要があります。

アンカー引抜試験

発注機関の工事仕様書もしくは工事発注の考え方によっては、アンカー引抜試験の計上が必要な場合があります。

電気通信編に『耐震施工(あと施工アンカーボルト引張試験)』がありますのでこちらより計上すれば良いかと思います。

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最後に

以上で、あと施工アンカーに関するまとめを終わります。

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ここまで記事を読んでくださってありがとうございました!

それでは!

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